ハマっ子が,佐賀県伊万里市の弁護士になるまで

2009年05月10日

 田形 祐樹 at 22:30 | Comments(2) | 個人
私が,法学書院「受験新報」2008年9月号の「弁護士 北から南から」という連載に書いたモノを,編集部の許可を得て,以下に掲載します。

なお,「受験新報」は,私も受験時代に大変お世話になりました。この雑誌に巡り会っていなければ,司法試験に合格していなかったと言えます。コンパクトながらも,ぎゅっと内容が詰まってます。受験生のみなさん,ぜひどうぞ。
こちらでも書いてます。
http://yuukitagata.sagafan.jp/e37706.html
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ハマっ子が,佐賀県伊万里市の弁護士になるまで
弁護士・田形祐樹(佐賀県弁護士会・59期)

はじめに
私は,中学時代からサラリーマン5年目までの間,その大部分の時間を横浜で過ごした。ところが,今は縁もゆかりもない,また修習地でもなかった,佐賀県伊万里市で弁護士をしている。
この稿では,将来法曹になる読者の皆さんに,司法修習及び弁護士としての就職について「こういう選択肢もありますよ」ということを示したい。

修習開始
修習地は第三希望の鳥取になった。第一希望の仙台は難しいとしても,第二希望の松江には引っかかるだろうと思っていたから,少しショックだった。
しかし,鳥取修習は大正解であった。修習生は,自分を含めて4人しかいなかった。この修習生4人という数字は,当時全国最少か二番目の少なさだったと思う。であるから,どの修習でも,とてもよく面倒をみてくれる。修習担当者だけではない。修習担当以外のの弁護士や事務官さんもだ。ある鳥取の弁護士は「鳥取は,日本一の修習だ」と,おっしゃっていた。私は,これに全面的に賛成する(他の修習地の修習生から話を聞いて,修習内容や面倒見のよさを比較した結果)。
皆さんも,修習地を選ぶときに,思い切って,修習生が少ない地方を選んではどうだろうか。上記のように,面倒見がよい所が多い。それも,できれば,縁もゆかりもないところで。実務修習だけでなく,全く新しい場所で一定期間暮らし,その土地の新しい人たちとの出会いがあるだけで,新しい刺激を受け,勉強になるだろう。
私は,修習担当の弁護士の法律相談・接見だけでなく,他の弁護士のものも見せてもらった。もちろん,修習担当の及び,その他の弁護士に断って,許可を受けたうえである。断られたことはなかった。もちろん,礼を失しないようにお願いすべきであるが,修習生という特権を生かして,修習生でしかできないことを積極的にお願いしてはどうだろうか。実務に出れば,他の弁護士(同じ事務所の,指導担当先輩弁護士を除く)の法律相談や接見を見る機会など,そうなくなるだろう。多くの弁護士の法律相談・接見を見ると,とても優しく相手に接する人もいれば,やや怒ったように接する人もいるなど,本当に様々である。指導担当の弁護士の法律相談しか知らなければ,「こんなものかな」と思ってしまうだろう。修習生は,色々なところに首を突っ込める立場なのだから,その立場を使わない手はないだろう。
「近頃の修習生は,何をしたいのか,何を考えているのかわからない。」「近頃の修習生は素直すぎる。」という弁護士の声を時々聞く。修習生は,もう少し,「ずうずうしく」なってもいいのではないか(もちろん,修習生として社会人としての常識は保つべきである)。

修習後
私は,修習修了後,法曹として,すぐに働き始めなかった。1年2ヶ月間,アジア横断の旅に出た。
もちろん,すぐに就職しないことによるデメリットが多いことは確かである。同期に取り残される,修習で学んだことを忘れてしまう,そして何より就職が難しくなる。
だが,それでも,ある一定期間,個人的にしたいこと,すべきことがある人には,それをやることでのメリットがあるだろう。
私も,上記のようなデメリットがあることは承知していた。それでも,利益考量すると,就職を遅らせて,やりたいこと,やるべきことをした方がプラスになると判断した。私は,結果として,同期に1年半遅れて働き始めたが,この判断は全く誤っていなかったと考えている(弁護士は定年がないから,働き終える歳を,1年半延ばせばよい。裁判官,検察官希望の人には不可能であろうが)。私の場合は,司法修習修了後に,このようなことをしたのだが,司法試験合格後,修習開始までの間に,同じようなことをしてもいいだろう。
こういうことを書いて,多くの人が私と同じマネをすると,法曹界はおおいに困るのであり,こういうことを書く私は無責任であろうか。だが,実際には,私と同じようなことをする人は,ほとんどいないであろうから,書かせていただいた。

そして就職
 私は,早い段階から,弁護士過疎地域で働くことを考えていた。ただ,修習開始前から,具体的な就職先を決めてしまうことはせず,修習を通じて,それが正しい選択になるか確認しようとした。鳥取という修習地は,その確認作業にピッタリだった(なお,近時,修習が始まる前に,修習後の就職先の法律事務所を決めている修習生が多いという。確かに,就職戦線が厳しいので,早く決めてしまいたいという気持ちもわからないではない。しかし,修習を通じてこそ,自分がやりたいことがはっきりとしてくるのではないか)。
 鳥取は,全国1を争うほど,弁護士が少なく,それだけに一人一人の弁護士の役割が大きい(なお,地方では,女性弁護士の割合が,都会よりも少なく,さらに貴重な存在となる。鳥取では,私が修習を開始した時は,女性弁護士は全県で一人しかいなかった。地方では,離婚などについて女性からの相談も多く,相談弁護士として女性を希望する人も多い。そこで,女性弁護士の存在は,とても重要である。このように地方では「女性」ということが弁護士としての一つの「売り」になりうるのである。弁護士過疎地域で働くことを希望する私は,自分は女性だったらよかったのにと考えることもある。
「地方だから,田舎だから,仕事がないのではないか」という心配は無用。今までは,弁護士に容易にアクセスできなかったから,地元の人たちも弁護士に相談することなど,考えてもみなかった人が多い。仕事は実際には,たくさんあるのである。こういう環境だから,若手弁護士も,早くから色々な仕事をせざるを得ず,経験を積むことになる。登録して早くから,弁護士会の委員となり,東京に出張し,中央の先端の議論を知ることもできる。
「最先端の情報に乗り遅れるのではないか」という心配もあるだろう。しかし,現在はインターネット時代である。メーリングリストなどによって,情報交換も活発に行われているし,ネットを使って講演などにもアクセスできる。そして,上記のように,東京で最先端の議論に加わり,全国各地の弁護士とも交流することもできるのである。
 そして,なにより地方には,都会にはない多くの自然,新鮮でおいしい食べ物などがある。通勤地獄とは無縁である。
私は,鳥取での修習を通じて,弁護士が少ない地方で働く意思を固めた。
「給料がなくてもいいから,東京で働きたい」と言った修習生がいたそうだが(酒の席での冗談のようだが),多くの修習生の都会志向を表す象徴的なエピソードではある。しかし,都会(特に東京,大阪,横浜)での弁護士就職は,近時かなり厳しいという。
地方では,まだまだ弁護士が望まれている地域が多い。このような,より望まれている地域で,弁護士としてのやりがいを見つけられる仕事をしてはどうだろうか。
 私も,このような観点から,佐賀県伊万里市で,弁護士として働くことを選んだのだった(それまで,伊万里市には,人口6万人で弁護士一人だった)。

追記
 私は,ブログで,伊万里での生活,弁護士業務及び1年前のアジア旅行などについて綴っている。興味がある方は,ご覧いただくと幸いである。私のブログは「伊万里の弁護士」で検索するとヒットする。
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この記事へのコメント
私 商工共済のアレに引っ掛かった口です。
3分の1はお金戻ってきましたが…
弁護士さんの所に行き、色々話しました。
弁護士さんも大変だろうと思いましたが、お金預けて倒産だ!!となり、お金が返ってこない私はもっと大変だぁ゚。(p>∧<q)。゚゚


先生!これからも、弱い者の(私の)味方でいて下されぇ(^Q^)/^
Posted by こぶた at 2009年05月11日 00:00
お久しぶりです!岐阜県県高山市の(元中田書店)渡邉遼一ですこの度書店を閉店しました、これからの書店経営はなかなか難しい、あれから年月が経過しましたが、しばらくはフリーですので来月にでもバイクで九州にツーリングがてらお邪魔しますので、熱烈歓迎してください日時が決まったらお知らせします、*あれから色々ありました、お会いしてからのお話に
お元気に大活躍のことと推察いたします、楽しみにしております
Posted by 渡邉遼一 at 2010年03月24日 22:50
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